睡眠に関する疑問のあれこれ

“寝だめ”ってできるの?

​​残念ながら、たっぷりと長時間”寝だめ”をしても、睡眠負債を防ぐ効果はないと言われています。​ 

​​これを裏付ける、とある実験結果があります。​ 

​​◆被験者8名に以下の実験を実施しました​​。​ 

  1. 10時間は明るい場所でふだんの生活を過ごす。
  2. 残りの14時間は暗い部屋でベッドに横になり、好きなだけ睡眠をとる。

​​​すると、以下のような結果があらわれたのです。​ 

​​▼経過日数 ​​▼平均睡眠時間
​​実験前​ ​​7時間36分​
​​初日​ ​​約12時間​
以後、日が経つごとに睡眠時間が短くなっていき……​
​​3週間後​ 8時間15分​

​​この結果から、被験者たちにとって必要十分な睡眠時間は”8時間15分”であり、さらに実験前の平均睡眠時間から考えると”約40分”ほどの睡眠負債を返すのに、3週間かかったことになります。ちなみに、実験中の被験者たちは気分や活力が劇的に向上し、幸福感も増したとされています。​ 

​​つまり、”寝だめ”のように長い睡眠をとれる状態がすでに負債を抱えている、ということであり、睡眠は「負債は返せるが、貯金はできない」ということです。​ 

​​しかしながら​​ある研究では、1週間ずっと寝不足の状態でいるよりは、週末に​​たくさん寝る​​ことで死亡率が低くなるという結果を発表しています。​​寝不足よりはまだマシ、ということですね。​ 

​​反対に、別の研究では、​​週末に普段よりも長い睡眠をとること​​によって体内時計が狂い、糖尿病のリスクが高まるということも言われています。​ 

​​ですから、​”​寝だめ​”​をするにしてもほどほどにし、それよりも1週間の睡眠サイクルを規則正しく整える生活を心掛けることが大切ということです。

参考資料:William C. Dement, MD, PhD. Sleep Extensions: Getting as Much Extra Sleep as Possible. Clin Sports Med 24, 2005 ​ 

柳沢先生について

​​柳沢 正史 / Masashi Yanagisawa​
​​株式会社S’UIMIN 代表取締役社長​

1960 年東京生まれ。筑波大学大学院修了、医学博士。米国科学アカデミー正会員。大学院であった 1987 年に血管制御因子エンドセリンを、1998 年に睡眠・覚醒を制御するオレキシンを発見。31歳で渡米し、24年間にわたりテキサス大学とハワードヒューズ医学研究所で研究室を主宰。2012年、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)を設立。2017年、株式会社S’UIMINを起業し、代表取締役を務める。『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』の開発にあたり、睡眠情報に関する監修を担当。

紫綬褒章(2016年)、
朝日賞、慶應医学賞(2018年)、
文化功労者(2019年)、
ブレークスルー賞(2023年)など受賞多数。

株式会社S’UIMIN公式サイトは​こちら